グッドエンド

24作品目は冒険小説だ。

しかし、9作品目の冒険小説よりも厄介な、人間同士の歪な小さい物語が含まれている。

18作品目の恋愛小説よりはおもしろい。あれはひたすら人と人が愛するだけの諄い物語だった。

1作品目からここまで何年経ったのか分からない。6作品目の歴史物は本当に酷かった。突然幾分かの年月を重ねたり、文月を迎えたと思ったら次の瞬間には師走に昇っていて気が狂いそうになった。

無事ラスボスを倒して多くの人達と祝宴を迎えることが出来た。数作品前に見たことあるような面をした人もいる。異国の人はアジア系の顔を見分けるのが難しいらしい。8作品目のエッセイの時に偉い教授が卓の前で淡々とこの話をしていたのを思い出したがあまり関係は無い気がする。あの時は教授の最後の問いに正しい答えを言うことが出来たので、無事完結した。今思うとあれはかなり危なかった気がする。

そのようなことを考えていると、目の前が途端に暗くなり、数秒後には宿舎?の中に居た。グッドエンドを迎えたから25作品目に進んだんだ。今度は推理小説のようだった。

 

推理小説は苦手だった。何故過去形なのかと言うと、13作品目から16作品目が連続して軽い推理小説だったからだ。13作品目の時に困惑した私に対して、私を慕っているような若い少年が推理において重要な点を教えてくれたから推理小説が苦手ではなくなったのだ。

16作品目の時よりは難しかったが、どうにかグッドエンドを迎えられた。

そもそも私はなんでこんなことをしているんだろう。何となく離れの古びた本屋に入り、そこに居た書店主のおばあにグッドエンドの作品を読みたいと尋ねたら、

「物語は常に正しい終わり方をしないといけないんですよ。」

この一言の後に1作品目の世界に入った。多分あいつが原因だ、なにを言ってるんだあのばばあは。

無事に真犯人を当てることが出来た。偽装工作ばかりしていて、その上シラを切るのが上手くて自身の推理に疑問を抱いてしまった。牢獄から出たら、役者にでもなればいいのに。

 

帰れない。

どんなにグッドエンドを迎えても。

ここまでバッドエンドを踏まずに居られたが、そもそもバッドエンドを踏んだらどうなってしまうのかも分からない。踏んだら帰れないのかもしれない。

 

73作品目、私が敵役の冒険小説が始まった。ヒーローのような青年が言っていた。

「正義は勝つ!」

うるさい、少し顔が良いからって在り来りなセリフを言うんじゃない。主人公は私なんだ。私からしたら私自身が正義であってお前は敵なんだ。

物語が終盤を迎え、ヒーローが本気を出そうとしてきた。大きな剣を構えて、煌びやかで豪華な見た目に変身しようとしている。

長ったるかったから本気で蹴飛ばしてやった。多分私はこのジャンルでおけるタブーをおかしてしまったらしい。ヒーローが倒れた。

 

今までどの作品でも聞いたことの無いようなBGMが流れ出した。

37作品目のピアノが下手なヒロインが奏でた不協和音よりも酷い、思わず耳を塞いだ。

63作品目の旅人のころされ方よりも酷い光景、思わず目を閉じた。

 

気づいた時には現実世界に戻ってきた。

目の前にはばばあが居た。

「ありがとうございました。」

私は店を出た。

バッドエンドしか置いていない本屋。バッドエンドが物語の正しい終わり方である場合、物語にとってはそれがグッドエンドでもある。